朧なる月の如く【1】
03
梢の切れ間に傾く日輪。
その位置方向と予め目算した林の規模、周囲の樹木相の変化から、最深を抜けてそろそろ外周も近いようだ。多勢に無勢、身を隠しながら効果的に反撃する為には他に仕様が無かったとは云え、随分と遠回りをしたものである。弓の用意でもあれば平地での応戦も容易だったが、墓参にゆくのに弓矢も無かろう。
正確には、墓そのものを訪ねた訳ではない。許は曹丕が幼少時より過ごした都であり、今は亡き彼のひととの思い出が其処彼処に遺る特別な場所である。だから毎年この時期この日には、曹丕は一人で許都へと戻り、過日を偲ぶことにしていた。とは云え今年は全く予想外に、殺伐極まりない仕儀となった訳なのだけれど。日頃の行いが悪いとでも云うことか、などと、馬上の公子は全く飄々としたものだ。
(或いは、)
血の臭いに酔ったのかも知れない、今ではもう随分と遠いあの日の――あの、夜の。
(嘗ての無力を今更、埋め合わせようとでも?)
容の佳い唇が刹那、自嘲に歪む。到底贖い得る訳が無い。全く無意味な、殆ど八つ当たりの腹癒せに過ぎぬと充分に解っている。居合わせた賊どもにすればいい迷惑だろうが、元より斟酌してやる義理など曹丕には無かった。仕掛けたのは彼方なのだ。
(――あれが知れば、怒るな)
常ならともすれば離し難い様な、背中をふと思い出す。今ばかりは司馬懿が此処に居なくて良かったと、曹丕は知れず肩を竦めた。
February 27, 2007 | 09:48 PM