そ し て ま た い つ も の こ と 。

 自慢じゃないけど、忍耐と集中力には幾らか定評があるんです。


 だから背中越し、わさわさと落ち着きも無く動いている物体はさらりと無視して、整然と並ぶ文字を辿るのも訳は無い。

「………ちょっと。」

 無い、
 ―――訳なのだ、けれど。

「激しく邪魔なんですけど伯符ー…」
 親愛の証左と云っても過言でないと思う、優しき労り溢れる放置状態を良いことに。益々無遠慮に凭れて委ね倒される熱、自然にじわじわ前にのめり続ける態勢を維持せざるを得ない、この状況は流石に苦しい。
 全く正当な抗議でしょう?背を合わせた姿勢のまま、全力でぐだぐだを表現する主殿にぶつけてやる。いやほんとに重いんだってば、限界。
「んー?ああ、気にすんなって」
「それこっちの台詞だと思う絶対」
 ―――まあほら、思えば長い付き合いな訳だし。
 こんな程度の反抗が、自侭な幼馴染に通じるとも思わないけれど。
 ここまで手応えが無いと故意に逸らされているのだか、或いはもしや此方の意図が全く理解されていないのではと、判断に迷って些か不安になってみる。大丈夫かなウチの軍。
「今をときめく孫軍大将の後ろを、一手に任されてるって訳だ。光栄だろ?」
「…もう」
 振り仰いで光る褐色の瞳をこれ以上、言葉で詰っても時間の無駄だ。あと多大な労力の。
 負けじと――と云うよりも正直諦め含みの境地で、屈めていた背を思いきり反らしてみる。完全に脱力して殆どずり落ちかけていた敵は、然程の抵抗も無くあっさり圧し戻せた。
 反逆行為だと、むしろ楽しげな非難は無視して寄り掛かれば、そのままちょっと圧し上げる姿勢で彼我の重心が如何にか落ち着く。何の反撃も返らないところをみると、親愛なる大将は重畳にも、この忠臣めの提案に譲歩してくれたらしい。一方的な負担が減ってひと心地、伸びた背の筋が気持ちいい。
 思えば。
 出会ってすぐの幼い頃からこの友人は、窓から飛び込みざまひときしり喋り倒して満足した後の定位置とばかり、同じ態勢で居座ったものだ。
 本人的には付き合いのつもりか、卓上から掠めた書物をその辺りに転がしてみたり、琴の旋律が地味だと茶々を入れてみたり。当然その度、勉学も奏楽も何もかもを背後から邪魔してくれたっけ。それはもう本当に、見事なくらいに。
 まだまだ人間が出来ていない――立派な君子に成長を遂げた今とは違って――少年時分の話なのだし、厄介な訪問者など蹴飛ばし叩き出してやっても良かったと思う。けれど何故だかいつでも結局、泣き寝入るのは此方と相場が決まっていて。
 抗う努力、いっそ意地みたいなものを露骨に盛大な溜息と投げ出す頃合いには、すっかり馴染んでしまった温みはそれでいて、何やら手放し難かったことを覚えている。

 力を抜いて自然に預け分け合う重さが、ぴたりと釣り合う感覚が存外に心地良いものだと、けろりと教えたのはこの背中。

 面映いようなほっとするような、そんな感触は今も変わらない。ちょっと呆れる程に、何も。
 ―――何とも邪魔だってことにも、変わりはないんだけど ね。
 目の高さまで一応は掲げてみたこの竹簡も、またそのうちきっと、放り投げられて終わる運命なんだろう。
 それもまあいいかなとつい思う、所詮は完全敗北と云うやつなのかも?


 けれど既にして慣らされきったこんな戦局は今更どうなるでも無くて、ただこっそりと笑ってみた。

策兄に滅法弱い周郎。まぁ書いてる人間が心底孫策ラヴだからね、仕方ないね(笑)
断金は本当にリバだわ私…仲良くガチでどつき合ってればいいよ!←
元々は フリー配布画 にくっつけてたSS。画見ないと状況わからんかもですね申し訳ない。