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他意は無いのだ。
紅い花が好きだと 薄い唇が何時か呟いて、
門前の花売りが偶々 紅薔薇を抱えて居て、
何気も無しにつと 抜いて取った一輪の紅。
ふと正気に返れば、如何にも始末に困る是の代物。
うち捨てるよりはと、否、殆ど捨てたも同じものかと。
自嘲混じりに差し献ず刹那、見開いた彼(の瞳の幼気は直ぐに、
艶めく口の端の紅(に掻き消され。
「偶には――素直に感謝してやるとしようか?」
………他意など、無いのだ。
徒の益体も無い、成り行きの様なもので、
謂わば不可抗力とでも称すべきもの、特別な意味など在る筈も無い、決して。
けれど。
流し与えられる其の眼差しを。
常より聊かなりと淡く綻ぶ様な唇を。
何故だか正視する事が出来ない己を、認めぬ訳にはいかなかった。
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