甘 い 生 活

何とも旨そうにものを喰う男なのだ。


ぶらりと立ち寄ったカフエの一角、
自分の器は疾うに空にしてしまったもの欲し気な風情に、
掬って分け与えてやったひと匙を頬張る今この時でさえ、本当に幸せそうで。

無論、僕だって旨いものは好きだ。
旨い酒が、更に酌をしてくれる美人まで在れば申し分ない。
けれど生まれた時からいつも明日の糧にさえ困る日常だったから、
喰らうと云う行為は娯楽と云うよりむしろ、生死に関わる義務として身に染みてしまっている。

だからこの男が目の前、喜色満面大食する様を見るのはいつも楽しかった。
(尤も本人曰く、幼少時はそれなりに喰うに苦労したそうなのだけれど)
あさましいだの意地汚いだのも突き抜けて、いっそ爽快だ。
しかも今日みたいに、どう考えても不似合いな舶来の甘味にご執心とくれば、尚更可笑しい。

「あいすくりん、好きだよねぇ聞多」
「おうよ。エゲレスで初めて喰った感動は忘れられん」
その感動とやらを思い出したのか、迫力満点の傷跡で頬を飾った
(一見何とも胡乱な渡世者風の物騒な)男はうきうきと、豪快に笑った。
驚きやら衝撃やら長旅の疲労やらで、当時の僕には正直そんな余裕はなかったのだけれど、
どんな時でも食の楽しみを満喫する図太い神経がひどく聞多らしい。
確かにエゲレスでも、あいすくりんを売る屋台を見つける度に買い求めていた記憶がある。
(そんな彼が一番流暢に話す英語は「でぃすわん、ぷりーず」だったりする)

「そんな訳だから、今度からウチに来る時は必ず手土産として持参するように」
「て云うかすぐ隣だし土産って。そもそもしがない居候身分じゃん聞多」
「バッカ、親しき中にも礼儀あり!気持ちだろキモチ」
「キモチねぇ」
綾子さんにって云うなら話は別だけど。
件の寄宿先、すっかり馴染みとなった大隈家奥方の清楚な姿を思い描く。
…ちなみに当主に貢ぐ気だって毛頭無い。
「まぁいつか、聞多が重病で寝込みでもしたらお見舞いしてあげるよ。
 無駄に頑丈だしそんな機会なさそうだけど―――そうだな、
 もう一回くらい膾にでもされてみる?」
「また布団針で縫われろってか」
「今度は派手に金銀糸とかでさ。目立つよーコレは」
「お前ヒトゴトだと思ってなー…」
こちらの無責任な発言に当然ちょっと憮然とする聞多だけれど、僕の方こそ当然そのくらい気にもならない。
掌をひらひら、いじけた風情を軽く笑い飛ばす。
「むくれないでよ可愛くないから。
 心配しなくても、僕がちゃあんと食べさせてあげるし。当然膝枕つ・き・でv」
「……頼むから、梅ちゃんを名代にしてくれよなそん時は」
男の膝なんてむしろ悪化すると、真顔で懇願する相棒に。
そんな機会があるなら絶対に自前の膝枕を謹呈してやろうと、僕は固く心に誓うのだった。

アイス画 に続いてこちらも伊藤本に貰って頂いた、伊藤一人称SS。
史実の @食道楽聞多さん A重病爺アイス膝枕事件 を元に
捏造してみました よ(笑) そんで宣言通り●十年後とかに膝枕実現
見た目ヤクザな満身創痍男が甘党だったらすごい微笑ましいかなと。いちゃいちゃは正義!